第105章 幸せになれると思う未来を掴み取るだけ
「龍は、彼女と付き合ってる時も好き好きオーラ出さなかったよね」
「す、好き好きオーラ?」
「龍の爪の垢、貰ってもいい?」
「絶対に嫌だけど、一応なにに使うのか訊いてもいいかな!」
「楽に飲ませるに決まってるでしょ。楽も、キミのだったら飲むと思わない?」
「飲まないと思うな!?」
つまり何が言いたいかと言うと、楽は春人(正しくはエリであるわけだが)に対して好き好きオーラが垂れ流しということ。
「エリの方は……」
言い澱み、上目遣いで龍之介を見つめると、彼はゆるゆると頭を横に振った。
「俺に気を使わないで、天が考えていることを教えてくれないか」
「…分かった。
彼女は、楽が好きだよ」
言葉にしてみると、思っていたよりも胸に強い痛みが走った。とっくりに割り切ったつもりでいたのだが、どうやらそれが出来ていたのは脳だけだったようだ。ボクの心は未だ、囚われたまま。
少し怖かったけれど、ゆっくり顔を上げ龍之介の表情を窺う。彼は泣きそうな顔で、笑っていた。
「あはは、やっぱりそうだよな。良かった。俺の出した答えは、間違ってなかった」
「龍の言う答えは、2人の幸せを願って身を引いたこと?」
「どうかな。身を引いた、なんて言ってしまえば聞こえはいいけど。実際は、ただ逃げただけなのかもしれない。
いつか、エリが本当の気持ちに自分で気付いて、俺の元を離れて楽のところにいく。そんな未来に、耐えられる気がしなかったから」
「……言わなければ良かったのに」
「え?」
「きっかけなんて、与えなければ良かったんじゃない?」
自分でも気付けないほどの、胸に灯った小さな小さな火。それに酸素を送り、大きな炎にしたのは龍之介だ。そんなことをしなければ、火は何事もなく鎮火していたかもしれないのに。手の平で優しく包み込んで閉じ込めて、完全に外と遮断してしまえば良かったんだ。火は、酸素がなければ燃え上がらないのだから。