第104章 爽やかな笑顔だな
Keiとの通話を終えTRIGGERの待つ楽屋へ帰ると、さきほどまで話をしていた相手が私を待ち構えていた。扉の横で壁にもたれ、腕組みをしていた彼女だったが、私を見るなり飛び掛かってくる。さっきまで敵意むき出しだったKeiは、マタタビを前にした猫のようである。Lio効果は絶大であった。
何を言っても引っ付いて離れてくれない彼女ごと、楽屋に足を踏み入れる。そんな私達を見て、楽は目を剥き、龍之介は楽しそうに笑い声を上げた。
天は、この短時間で何があったらそうなるの…と呆れ声で呟くのだった。
そして、私は3人を車に乗せ事務所に帰り着く。仕事部屋に入るやいなや、私はスマホでラビッターを開いた。やがて、頭を抱え机に突っ伏す。
『やっぱり……』
「どうした春人。頭でも痛いのか?」
「これでしょ」
天も私と同じようにスマホの画面をタタン叩き、楽と龍之介に見せてやる。そこには、ラビッターのトレンドワードが並んでいた。
“ Kei ”
“ Keiの素顔 ”
“ 輝け未来のスターアイドル ”
「なんだよ。べつに、そんな頭抱えるような奴は」
「あっ!!」
“ Lio ”
“ Lioとは? ”
“ 八乙女楽 ”
「って!何で俺までトレンド入ってんだよ!!」
「Keiがお面取った時、馬鹿みたいに立ち上がったからじゃない?」
「楽って、トレンド入りするとき絶対にフルネームだよね。これってなんで?」
最悪だ。楽がLioにそっくりなKeiの素顔を見て反応したところが、放送されてしまった。それ以上に最悪なのは、Lioという名前が世間に広く認知されてしまったこと。
これまでLioの名を知っているのは、一部の芸能関係者や、デビューライブを直接観た人間だけだった。しかし、これからはその様式はガラリと変わるに違いない。