第104章 爽やかな笑顔だな
好きな時にかければ良いとは言った。しかし、まさか秒でかけてくるとは思っていなかった。私は震える携帯を愕然と見つめる。
辺りを見回し、電気が付いていない適当な部屋に身を滑り込ませた。
ひとつ、ふたつ咳払いをしてから、春人の声を脱ぎ捨てる。それから、通話開始のボタンを押した。
『はい。もしもし』
《 っ…!!う、そ…その、声…。本当に、Lioなの?》
『ふふ、そうだよ。じゃあ今度は、貴女の名前を教えてくれる?』
《 あっ、ご、ごめんなさい!私は、Keiと言います。あの、あとはえっと…貴女の、大ファンでした!ずっと…大好きで…っ。
いや、違う…そうじゃなくて。今も…!いま、も…好き、です…!》
電話口で声を詰まらせる彼女は、私のことを過去形で語ることはしなかった。
私はなるべくゆっくりと落ち着いた声で、嬉しいと。ありがとうと呟いた。
『Keiさんって、さっきテレビで歌ってた子かな?』
《 そっ、そうです!ぅわぁっ、訊いてくださったんですね!嬉しいです!あの、良かったら感想とかもらえますか!私、Lioさんみたいに上手く歌えていたでしょうか!》
『うん。凄く上手だったよ。でも私は、貴女の歌が聴きたかったかな』
《 え…? 》
『Keiさんが私のことを好きで、私みたいなアイドルになりたいって思ってくれるのは嬉しい。でも、それじゃ駄目だよ。貴女には、貴女にしか作れないステージがきっとあるから。それを、追い掛けて欲しい』
声が返って来なくなってしまった。しかし私は、言葉を継ぐことをせず待った。
《 Lioさんは…もう、帰って来てくれないんですか 》
『うん。ごめんね…。私にもう、あの頃のようには歌えないから。歌いたくても、歌えないの』
《 ……っ、だったら…だったら、なおさらです!私が、貴女の代わりに歌う!貴女の意志を引き継いで、全部を引き継いで、Lioさんの代わりとして生きていきます!》