第104章 爽やかな笑顔だな
運が良く、2箇所目で発見に至る。使われていないスタジオのセット裏。壁に立て掛けられた沢山の板の死角で、Keiは三角座りをしていた。
『見つけました』
「〜〜っ!?なんでここにいんのよ!!」
『探し物は得意なんです』
「そうじゃなくて!なんで来たのかって訊いてるんだけど!?」
私はKeiの退路を塞ぐように、目の前にしゃがみ込んだ。
「な、なによ…今さら謝ったって許さないから」
『え?謝りませんよ。だって私、間違ったこと言ったなんて思ってませんし』
「馬鹿にしくさって!!」
『はは。でも、貴女と話をしたいとは思ってるんですけど』
「ぜっっったい嫌」
まるで拗ねた子供のように、Keiはぷいっとそっぽを向いてしまった。予想通りの反応だ。一応 対策は立ててある。
『私とは、話をしたくないんですか?』
「当たり前でしょ」
『なら、誰とだったら話をしてくれるんですか?』
「……Lio。Lioと、話がしたい。また声が、聞きたいよ…。それで、もう歌わないのかって。本当に二度と帰って来ないのかって…訊きたい」
Keiは、また声を潤ませた。そして、立てた両膝の中に顔を埋めてしまう。
『私がもし…Lioの現在を知っていると言ったら信じてくれま』
「信じない」
『ですよね』
私の信用も地に落ちたものだ。どうやら、さきほどの暴言で完全に嫌われてしまったらしい。こうなったら最終手段だ。用意していた奥の手を使わせてもらうとしよう。
私は、手帳の白紙ページを1枚ちぎり取り、さらさらとペンを走らせる。
『これ、貴女が世界で一番好きな人の携帯番号です』
「……なに、それ。そんなの、嘘に決まってる」
『仮に騙されていたとしても、損するのは精々 通話料金くらいでしょう。好きな時に、かけてみると良いです』
Keiはしぶしぶ、私の手からメモを受け取った。