第14章 俺は、あんたより すげぇアイドルに ぜってーなってやる!
彼女は、無言で俺達の前から姿を消した。
「…兄ちゃん」
「ん…大丈夫、大丈夫だ、理」
俺達は、2人でずっといられれば。それだけで大丈夫だから。
他には何もいらない。
いつか、居なくなってしまうのなら 最初からいらない。
俺の中に、甘さも切なさも。残していかないでくれ。頼むから。
『はいっ。これあげる』
10分足らずで戻ってきた彼女の手には、俺達の大好きな 王様プリン。
それを2つ、こちらに向かって差し出している。
「…わぁ、王様プリンだ…っ、」
理の顔が、パァっと明るくなる。そして、すぐそれに手を伸ばした。俺はそんな理の手から 2つとも取り上げて、ギリギリ届くピアノの上にバン!と置く。
「こんなもんっ、いらねぇ!」
『ピアノの上に、物を、置かない』
さっきまで にこやかな顔をしていた彼女の顔が、一瞬で凍り付いた。ひと睨みされただけで、石になってしまいそうだった。
仕方なく俺は、自分が置いたプリンを再び手の中に戻す。決して、彼女の剣幕にビビったからではない。断じて。
「おかしいだろ、…なんで みずしらずの あんたが、俺らにこんなんくれんの?」
『…んー…そうだなぁ』
「わぁい、いただきますっ」
彼女は考えながら、理の体をふわりと持ち上げて 演奏席に座らせる。そして、俺の手の中からプリンを1つ取って 封を開けて理に渡す。
理はすぐさま、スプーンでそれをすくって口へと運んだ。
『君達が、頑張ってたからかな』
「兄ちゃんも食べなよ!凄くおいしいよっ」
俺は、手の中の王様プリンをじっと見つめた。