第14章 俺は、あんたより すげぇアイドルに ぜってーなってやる!
泣いてたまるか。泣いたら、負けたような気持ちになるから。俺は涙を必死で目の奥に引っ込めようと唇を噛んだ。
ポロロン…
部屋に、ピアノの音が響いた。
びっくりして、ピアノの下から演奏席を見る。すらりと 長い足が見えた。
「………」
誰が弾いているのだろう。俺達がここにいる事に気付いているのだろうか?
気になる事は色々あったが 俺はその時、初めて音楽を もっと聴きたいと思った。
傷付いた心を、ピアノの音色が優しく癒していくような感覚。
クラシックのクの字も知らなかった俺には、それが何という曲なのか分かるはずもない。
そこそこ大きくなって調べたら、これの曲名は【茶色の小瓶】だという事が分かった。
目をつぶって、ただ耳から音を取り込むだけをする。ささくれ立った心が 丸くなる。溢れそうだった涙がいつのまにか乾いていく。
『どう?落ちついた?』
「っ!」
ピアノを弾く手を止め、ピアノの下にいる俺と理を覗き込む。
長い髪が逆さまになっていて、地面に付きそうだった。
やがて、演奏席からピョン と飛び降りてきて。俺達の方へ手を伸ばしてきた。
それが、俺と彼女の出会いだった。
当時は多分、彼女は中学生くらいだったと思う。とにかく、随分と年上だった事は覚えている。
当時の俺は、そんな優しい手を素直に取れるほど 純な性格はしていなかった。
「っ、誰も!あんたにピアノ弾いてくれなんて、頼んでねぇよ!俺達の前から…早くっどっかいけ!!」
『………』
来る者来る者を傷付けて、必死になって自分を守っていたあの頃。きっと、俺はまた 間違った。
口元に残った罪悪感。