第104章 爽やかな笑顔だな
私は、自分の過去を思い起こしていた。
初めて自分が作った楽曲に、自分が作った振りを当てた時のこと。どちらも必死で練習して、完璧にしたはずなのに、合わせてみるとチグハグになった時の悲壮感。どちらも上手く出来なかった自分への苛立ち。
きっとKeiも、当時の私と同じ気持ちに違いない。
彼女の生歌を聴けば、Lioを真似る理由が分かるかもなんて、もうそんなことはすっかり頭から抜け落ちていた。
そして気が付いたら、彼女の立つステージに足が向いていたのだった。
しかし、私より早くステージに上がった男がいた。
「早くそこを降りて。キミが退かないと、他の出演者やスタッフさん達に迷惑がかかる」
そう言い放ったのは、天であった。Keiは、拳がブルブルと震えるほど強く握りこんで、ステージを後にする。置き去りにされた天もまた、彼女に続いた。
スタッフは天に礼を告げ、Keiにお疲れ様でしたと再度 声を掛ける。しかし、彼女がそれに答えることはなかった。
私達は、Keiの動向を見守る。てっきり、さっさとスタジオを後にすると思われたが、意外なことに彼女はその場に留まった。壁に背中を預けて腕を組み、他参加者のリハーサルの見学を始めたのだ。
彼女は、逃げ出さなかった。死ぬほど悔しくて、叫び出したいほど悲しいはずなのに。
そんなKeiだったからこそ、何かをしてやりたいと思ったのは私だけではなかったらしい。
「プロデューサー」
『はい』
「ボク達があの子にアドバイスをするのは、番組の趣旨的に問題は?」
『今回の企画は、出演者に点数を付けるわけでも順位を決めるわけではありません』
「分かった。ありがとう」