第103章 ただいま
姉鷺は、ハンカチを目頭に当てて小さく鼻をすすっている。社長はというと、椅子をくるりと回転させて完全に後ろを向いてしまった。
「馬鹿馬鹿しい…!ただ元の形に戻っただけだろう!それ以上は、ここを出てからやってくれ!」
そう言って私達は、社長室を追い出されてしまった。しかし、そう告げた社長の声も、少し上擦っていたのは私の気のせいではないだろう。
「よし、じゃあ行くか!」
『行くって、どこにですか?』
「決まってるだろ?」
楽は、グラスを傾けるジェスチャーを見せる。そして、今日はさすがに全員参加だからなと にかっと笑った。
そんな私達がやって来たのは、とあるリストランテ。もちろん個室も完備してあるので、落ち着いて会話も楽しめる。少し遅い食事となったが、4人でテーブルを囲んだ。
かつてそうするのが当たり前だったように、私と楽と龍之介はアルコールを。そして天はジュースで乾杯する。今日はコース料理ではなく、アラカルト形式をチョイスした。誰もわざわざ口にしなかったが、店員が給仕に来る回数が少ない方を選んだのだ。無論、久し振りに4人で過ごす時間を大切にしたかったから。
「それにしても、さっきの天…可愛かったなぁ。あんな姿、初めて見たかも」
「さぁ。なんのことだか」
「ははっ、照れんなって!それほど春人の帰りが嬉しかったってことだろ」
「…うるさいよ。2人だって、しっかり涙ぐんでたくせに」
うっ。と、楽と龍之介は口ごもる。目に涙を溜めていたのは私も一緒だったのだが、あえて申告などせずワインを口に含んだ。
変な話だが、こうやって三人が楽しそうに憎まれ口を叩いているのを聞いていると、あぁ本当にこの場所へ帰ってきたのだなと実感出来た。