第103章 ただいま
廊下ですれ違うスタッフの反応は様々であった。目を大きくして立ち止まる者。久し振りだと声を掛けてくれる者。どうして社内を歩いているのだろうと不思議そうな者。
しかし、ほとんどは好意的な反応を見せてくれたのだった。
そして、いよいよ辿り着いた社長室。私は高鳴る鼓動を抑えつけて、扉をノックする。
『失礼します』
「入れ」
この威圧的で低い声ですら、懐かしく安心する。
はいと返事をしてから、入室を果たす。社長は以前と変わらずの位置で椅子に腰掛けていたし、姉鷺も相変わらず社長の隣に佇んでいた。
『ご無沙汰しています』
「まったくだ。事前に申し合わせていた定期連絡も途中から怪しくなり、その分 随分とツクモに馴染んでいたみたいだな。そこまで入れ込む魅力がŹOOĻにはあったのか?送り込んだはずのスパイがあちら側に取り込まれたんじゃないかと本気で思っていたがどうなんだ」
『お…おぉ』
久し振りの再会が、まさか説教だとは。了とはまた違った圧が私を襲う。てっきり、よくやってくれたな系の甘い言葉が貰えるものと期待していたのだが。
「それに、了はまだ生きているみたいだが」
『そっ、それは…あの、ギャグと捉えて良いのでしょうか!?』
「好きにしろ」
どうかギャグであってくれと、心から願う。さすがの私も、暗殺までは請け負えない。
「私が受付に預けた物は、無事に受け取れたようだな」
『あ…はい』
私が首から下げた社員証を見つめ、彼は満足そうに口端を上げた。
「その…なんだ…。やはりお前には、うちの社員証がよく似合うな」
『っ!あの…それは、また私を、ここで雇ってもらえると捉えても良いのでしょうか』
「好きにしろ」
私は込み上げてくる気持ちを噛み締めるように、きゅっと唇を噛んだ。