第103章 ただいま
『だから、何もなければ…連絡をください。オンラインゲームのメンツが揃わないから頭数になってくれだとか。どうしても今日は、汚いラーメン屋の美味しいラーメンが食べたいから付き合えとか。
そんな連絡なら、いつでも歓迎しますから』
「っ…うん、分かった…!何もないとき、連絡する!あとオレ、毎日あんたにハート送るから。だから、春人もちゃんと返せよな!」
しゅんと下を向いていた悠は、瞬時に顔を明るくした。その隣では士郎が、ハート?ハートって何のことですか?と首を傾げている。巳波が、ゲームのことですよと優しく教えてやるのだった。
「離れても、俺も連絡する。毎日デートの誘いを申し込」
『それは困ります』
今度は虎於が下を向く番であった。そんな様子を見ても、トウマは勇気を振り絞り私に告げる。
「え、っと…俺も、どうしてもあんたの声が聞きたくなったら…連絡してもいいか」
『ふふ、たまになら』
「俺が駄目でトウマが良い理由が分からない…」
「下心があるかないか、ではないかと」
士郎は正論をぶち込んだ。
私達はしばし、最後の歓談を楽しむ。
やがて。ふと沈黙が流れた後で、巳波が静かなトーンで幕を下ろす言葉を紡ぐ。
「…そろそろ、時間ですね」
『はい。そうですね』
最後は、リーダーらしくトウマが締める。
「春人。短い間だったけど、ありがとうな。俺達は、ŹOOĻは、あんたのこと絶対に忘れない。
俺達を好きになってくれて。真っ当な道まで手を引いて、一緒に歩いてくれて…あり、が…っ」
声を詰まらせるトウマに、私は思わず手を伸ばしそうになる。しかしそれより少し早く、士郎が彼の背中に手を添えた。
「中崎さん。貴女が大切にしてくれた彼らの隣を、明日からは僕が歩んでいきます。何と引き換えても、ŹOOĻを守ってみせますから。だから。どうか安心して、貴女は貴女の道を歩んでください」
どうか私達が歩む道が、またいつの日か交錯しますよう。
私はそう祈りながら、しっかりと頷いた。