第103章 ただいま
私は、ツクモで培った情報を伝えられるだけ伝えた。現在抱えている仕事や案件は勿論のこと、誰々さんはゴルフに目がないとか。誰々さんは軍隊上がりだから小声で話す人間を嫌うとか。誰々さんは甘い物が大好きだから差し入れはお菓子を持っていくとか。そんなことまで。
士郎は、その全てを自らの手帳に丁寧に書き記していた。見る見る内に黒く染まっていくページを覗き込み、巳波は静かに感嘆の声を零す。
「あらあら…私達、随分と貴女に愛されていたんですね」
『ふふ。何を今更』
「お言葉ですが、棗さん。代わりに明日からは、僕が目一杯 貴方達を愛していきますよ」
「男性にそう熱く愛を語られるのは、ぞっとしませんね」
「えぇ…。む、難しいな…」
士郎は、むむむと俯いてしまった。一見すると、関係性が上手くいってないように思えなくもない。しかし、私は何ら心配していなかった。その根拠はひとつ。士郎が、彼らを心から好きでいるからだ。
「あ、あのさ…春人」
『どうしましたか?悠』
「もし、何かあったら…連絡してもいい?」
『それはあまり良いとは言えませんね。私はツクモを出る。そして宇津木さんが新たなマネージャーになる。だから有事の際、貴方達が今後頼るべきなのは宇津木さんです。それが、企業というものですよ』
「……そっか」