第103章 ただいま
『はは…4人が聞いたら、喜びますよ。では、早速ですが引き継ぎの作業に移って』
「あぁ待ってください。その前に、貴女に謝罪しなければならないことがあるんですよ」
士郎の雰囲気が変わる。思わずこちらが息を飲むほどに。さきほどまでの明るい彼とは、まるで別人のようだった。
素早く心算をしてから、私は話の続きを促した。
『こちらには謝られるような心当たりは一切ありませんが、何でしょうか』
「貴女があの伝説の元アイドル、Lioであることを了くんに教えたのは僕です」
唐突に彼の口から飛び出した、Lioという名前。私が何も言えずにいると、彼は申し訳なさそうな表情で話を続けた。
「というか、僕が海外支部から呼び出された理由こそが、Lioの存在を見つけ出すことでした。もちろん、それを命じたは了くんです。社長命令とはいえ、結果として貴女を酷く傷付ける結果になってしまいましたこと。ずっと、お詫びしないとと思ってました。
どうも、すみませんでした」
真摯に頭を下げる士郎からは、嘘の気配は感じられない。心の底から、私に悪いと思っているのだろう。だったら、今さら咎める必要など何もない。
『いえ、いいんです。それどころか、逆に頼もしいですよ。貴方が優秀であることを証明したようなものですから。
私と面識がない条件下で、Lioと私を結び付けられた人間は、姉鷺さんと貴方だけですから』
そんな有能な人間に、ŹOOĻを託せるのなら願ってもない。
「そう言ってもらえると…少しは心が軽くなりますね」
『あぁ、では代わりとは言ってなんですが…どうやってその事実に辿り着いたのか教えてもらえますか?どこにどんなパイプをどれほど持っていれば、Lioに行き着くんでしょう。
あちこちに痕跡を置いてくるようなドジは、踏んでないはずなんですけどねぇ』
すると士郎は、にっこり微笑んで首を振る。
「あはは。そこは、ほら。貴方はもう少しで、ライバル事務所の人間になるわけですよね?そのような方に、手の内を見せるような真似は…ちょっと」
『ふ…ふふ、確かに、それは間違いありませんね。浅はかなことを言ってすみませんでした』
私の中で、ますます士郎の株が上がるのであった。