第103章 ただいま
「…泣くぐらいなら、背中なんて押してやらなければ良かっただろ」
「〜〜っ、泣いてないけど!?」
「ふふ、ご立派でしたよ。亥清さん。
残念な結果ではありますが、きっとこれで良かったのでしょう。私達がどう足掻いたところで、もう決まっている星巡りは変えられないのですから」
「なぁ。俺達…頑張ろうな。
死ぬほど努力して、最高のアイドルになってやろうぜ。それで、いつかあいつに…やっぱりあの時 俺達を選んでれば良かったって思ってもらえたら嬉しいよな!」
少し遅い時間ではあったが、やはり了はまだ残っていた。
副社長という肩書きに落ち着いた彼は、こちらを一瞥。長い前置きは無しにして、言いたいことを単刀直入に告げる。
『八乙女プロダクションに、帰ろうと思います』
「あっそう」
そのあっさりとした返事には、拍子抜けだ。絶対、ŹOOĻの為にツクモへ残れとかの勧誘があると思っていたから。
固まった私に、了は呆れた様子で続ける。
「っていうか、言い出すの遅くない?もしかしてこのままツクモに骨を埋めるつもりなのかな〜って思ってたよ」
『あ、いえ、そういうつもりは』
「君の後任ももう決めてあるから。ってことで明日から引き継ぎ作業始めて。そうだなぁ。まぁ一週間くらいで終わらせてよね。あぁ、もし伝え漏れなんかが後から発覚したらその時は、八乙女だろうが月の裏側であろうが地獄であろうが、絶対に追っかけて恨み言いに行くからよろしくー」
『え!?あ、は、はい…。分かりました』
手渡された資料を受け取って、動揺おさまらないまま部屋を後にすることとなる。
『了さん。えっと…
お世話になりました』
「べつに世話なんかしてないけど。
でもまぁ、僕も御礼を言っておこうかな」
『え!?』
「人の心は、計算が成り立たないという教訓をどうもありがとう」
計算が得意だったはずの彼は、最後に告げた。
「僕の目の届かないところで、適当に元気でやればいいよ。じゃあね、さよならー」
しかしながら、了は最後の最後まで了であった。