第102章 ŹOOĻ!ŹOOĻ!ŹOOĻ!
さて。彼らがステージに踏み出すまで残すところは3分弱。そんな場面で、何の前触れもなく懐の中の携帯が震えた。無論、普段であればこのタイミングでスマホを手に取ったりはしない。だがこの時、私の胸は無性に騒ついたのだ。もしかすると、これが虫の知らせという奴なのかもしれない。
私は何かに操られるようにして、画面を開く。新着メールが一件。件名はない。そして送り主は、八乙女宗助であった。滅多に連絡を寄越さないその男の名前を確認した途端に、鼓動はさらに加速する。
震える指で、通知部分をタップした。
“ 天が轢き逃げに遭い、病院に搬送された ”
意味を理解するのと同時に、スマホが手から滑り落ちた。
ゴトンという鈍い音に弾かれるように、彼らはこちらを振り返る。私は今、一体どんな顔をして立っているのだろうか。
動けない私の代わりに、トウマが携帯を拾い上げてくれた。そして、深刻な顔で私に告げる。
「……わるい。短い文だったから、思わず読めちまった」
『いえ』
いえ。そう答えるのがギリギリであった。スマホが手元に戻ったその刹那、今度は長いバイブの音がする。反射的に、通話ボタンを押した。
『はい』
《 天が…っ、天が! 》
電話口から聞こえたのは、動揺し切った姉鷺の声であった。
《 アナタに、身辺を気を付けるように…言われてたのに…!アタシが、アタシが悪いのよぉ…っ!》
『落ち着いてください。貴方のせいじゃない』
《 緊急搬送されたって…、アタシは今、楽と龍之介と一緒に関西にいるの…!天のところに、今すぐにでも駆け付けたいのに!》
『そう、ですか…あの、天の容態は』
《 こんなこと、今のアナタに頼むのは間違ってるって分かってるけど…でも、お願いよ!今すぐ天の傍に、行ってあげてちょうだい!》