第102章 ŹOOĻ!ŹOOĻ!ŹOOĻ!
後15分もすれば、本番のスタートである。慌ただしくスタッフが走り回るセット裏では、緊張感が満ちていた。
「さ、流石に緊張するな…!」
「な、なにトウマ緊張とかしてんの!?オ、オレなんか、大丈夫な片鱗しか見えないし!」
『悠、変な日本語使わないで』
「ふ。どうした?おまえらもしかして、ビビってんのか?」
『虎於。それ私のお茶』
「ふふ。可愛らしいですね、皆さん」
『巳波、ヘッドセットマイクが逆耳』
忙しなく行き交うスタッフ達の、足音や最終チェックの威勢の良い声だけが響いた。
やがて私達5人は、同時に ぷっと吹き出した。
「あははは!オレらマジ、ガチガチじゃん!」
「はは、まぁ俺のはワザとだけどな」
「トラ!そのワザとは違う意味でヤバいぞ!」
「ふふ、私だってワザとです」
「巳波のミスはワザとだったら1番ヤバいって!」
どうやら良い感じに緊張がほぐれてくれたらしい。密かに彼らの様子を窺っていたスタッフ達の表情も、心なしか安堵したように見える。
『さぁ、そろそろ “ アレ ” をやらなくては本番が始まってしまいますよ。トウマ』
「ん?なんだ?アレ…?
……あぁ!!あれか!」
「なーんか、嫌な予感しかしないんだけど」
「ほらほらおまえら!早く手、出せよ!今日こそはバッチリ決めていこうぜ!」
“ アレ ” とは、円陣のことである。トウマは頬を紅潮させて、いの一番に手を前へ突き出した。
「毎回思ってたけど、春人あんた ライブ前だと優しいなあ」
『私はいつでも優しいです』
「いや…まぁ、うん。そこはあえて触れずに置いといて。
なんか、いつもは厳しい親が風邪を引いた時だけめっちゃ優しくなるやつ。あれに似てる」
その感想は、どうも複雑だ。