第101章 運命の相手には、いつ会えるか分からない
『少しは優しくしてくれてもバチは当たらないと思いますよ。人の失恋の傷に塩を塗って楽しいですか』
「僕を選ばなかった君が悪い」
『なんですかそれ』
「大体、君には大概優しくしてるじゃないか。そんな大らかな僕が唯一怒る逆鱗に触れたのは春人ちゃんでしょう」
言われなくても分かっている。作曲が絡めば、ひとたび千は尖りに尖る。たとえ私相手でも、気に入らないポイントがあれば言葉を選ばず全力で攻撃するのだ。
でも、そんな彼の言葉だからこそ信頼出来る。
「でも、君は僕に感謝しなくちゃね。あの曲が世に出てたら、間違いなく君の黒歴史になってたよ」
『だから!初めから世に出す気はないと言っていたでしょう』
「世に出す予定のない曲なんて生み出すなって言ってるんだ」
『ぐ…!やっぱり千なんて嫌いだ!』
私は珍しく取り乱し駄々をこねた。もう何をどうひっくり返しても、正論を言っているのは千だったから。
「私達のマネージャーさんが、なんだか5歳児くらいに見えるのですが…」
「だな。もうどうやったって千さんに勝てないって分かってるからこそだろ」
巳南とトウマは、ヒソヒソと何かを話している。
「ひどいな春人ちゃんは。僕のこと嫌いだなんて」
『嫌いですよ』
「僕は好きだよ」
『……嫌い』
「好き」
千は綺麗に微笑んで、同じ言葉を繰り返した。
「オレ達、なに見せられてんの」
「俺に聞くなよ」
悠と虎於は、呆れ顔だ。
『…わ、私は、千さんの作る曲だけは…好きですよ』
「曲だけ?嘘だな。僕の見た目も好きなくせに」
『ほんっとうに一言多い男ですね!』
「はは。僕を黙らせたかったら、思わず息を飲むような曲を作ってみせて。ねえ?春人ちゃん」
私は、テーブルの上に置いたままだったビリビリの楽譜をゴミ箱に突っ込んだ。それから、勢いそのままに啖呵を切る。
『望むところですよ!誰もが聞き惚れてしまうような、貴方がぐうの音も出ないような、完璧で最高の失恋ソングを作ってみせますから!』
もう十分 落ち込んだ。もう、大丈夫。私はそんなに弱くない。さっさと立ち上がって、自分の足でちゃんとまた、ここから歩き始めるのだ。