第101章 運命の相手には、いつ会えるか分からない
『べつに、寂しくなんてないですよ。パンを作っている時間は非常に有意義です』
「おい。イースト菌との仲を深めるより、俺と時間を過ごせばいいだろう」
「私、イースト菌相手に妬く人間を初めて見ました」
『おぉ、焼くと妬くを掛けているんですか?お見事です』
「ふふ。恐れ入ります」
彼らとの付き合いは、そこそこ長い。この軽口が、彼らなりの励ましだというのも理解出来るくらいには親しくなれたのだと思う。
「恋人なんか居なくても、春人には…その、オレらがいるじゃん。ŹOOĻが隣にいてやるんだから、幸せだろ!?
し、幸せ…だよな?」
『はい。ありがとうございます、悠』
「べ、べつに…っ」
「そうだよな!それに男なんか、この世に山ほどいるんだ!あんたの事を世界で一番想ってくれるやつも、絶対いるから、その…なんだ。あんまり気を落とすなよ」
『ありがとうございます。
そこで、例えば俺とか。って言わないところに好感が持てますね』
「おい。まさかそれは、俺への当て付けか?」
「トラ…おまえ、そんなこと言ってたのか…」
こんな具合に、私の周りは騒がしい。それこそ、落ち込む暇も与えてもらえないくらいに。それが本当にありがたい。
しかし、騒がし過ぎるのも問題だった。いつもなら聞こえるはずの、ノックの音ですら聞き逃してしまったから。
「いつも君達の楽屋はこんなに賑やかなの?楽しそうでいいね。人のことは、芸能界から追放しといてさ」
騒がしかった4人は、その冷えた声に静まり返る。
そこに立っていたのは、冷笑湛える美しい男。千であった。