第101章 運命の相手には、いつ会えるか分からない
それから数日後。動揺していた気持ちも、やや落ち着きを取り戻していた。時間が何よりの薬であるとは、よく言ったものである。
ŹOOĻの命運が懸かったライブも、もうすぐそこまで迫っている。いつまでも私事を引きずっているわけにはいかない。
私はライフワークである曲作りに精を出していた。ペンをこつこつやっていた楽譜を、悠はひょいと覗き込む。
「なに?新曲?オレらの奴?」
『いや、特に誰に歌って欲しいかまでは決めてません』
「あっそ」
つまらなさそうに、ふいとそっぽを向く悠。そして、今度はトウマが興味津々で目線を楽譜へ落とす。
「へぇ。どれどれ…
“ 嘘を飼いならす私を、あなたは許さない ”
あれ…これ…って」
「私にも見せてもらえますか?
“ 愛し方を教えたなら、忘れ方も教えて ”
あらあら、これは…」
「どう見たって失恋ソングじゃん。こんな歌詞ばっか並べてさ…
あ!もしかして おまえ、失恋したの!?」
私は、歌詞を読み上げた2人と悠を睨み上げた。その悪い空気を察した虎於は、珍しく気を利かせて話題変えようと試みる。
「あー…最近あんた、俺達の付き人だけじゃなくてレッスンにも付き合ってるだろ。自分と向き合う時間くらいは、ちゃんと取れてるのか?」
『時間ですか?とれてますよ。最近は、よくパンを焼いています』
「そうかそうか。そりゃいいことだな。なるほど、パンを焼い……え?パン?」
『パン作りは、奥が深いですよ。生地を捏ねる時間、材料の微量な配分、発酵時間や室温なんかでも、出来が大きく違ってくる』
場が、シーンと静まり返る。
「へ、へぇ。パンとか焼けるんだ」
(やっぱ失恋したんじゃん!)
「あ、あんたが焼いたパン、食ってみてぇな」
(時間、余ってんだろうなぁ)
「あぁ。今度、持って来てくれよ」
(暇なんだな…)
「ぜひ、私にもひとつ頂けますか?」
(振られたのでしょうか…)
彼らとの付き合いも長くなってきている。だからだろうか。全員が何を考えているのか聞こえてくるようだった。