第101章 運命の相手には、いつ会えるか分からない
他人が与えてくれる熱が、こんなにも心地良いものだと教えてくれたのは龍之介だった。この逞しい腕の中にいる時は、まるで無敵になれたかのように思えるのだ。
私は自分を包み込んでくれている腕に、きゅっと縋り付いた。
「ふ…あんた、意外と甘えたなんだな」
『!!』
降ってきた声が思っていた人物のとは違って、勢いよく顔を上げる。
そうだった。今しがた私を抱いたのは、龍之介じゃなかったのだ。
『て…いま何時!?』
「午前3時くらいか。俺の腕の中で よく寝てたな。寝顔、可愛かっ」
『か、帰って!』
「おいおい。ヤってすぐ相手を追い出すとか、あんた男か。いや、俺でもそんな非道はしたことないぞ」
『いやそうじゃなくて!明日も仕事が!
ほら送るから駐車場に行…じゃ、なかった。私、お酒入ってるんだった』
虎於の明日の入り時間は昼からだ。朝一でなかったことが唯一の救いである。大事なアイドルを、こんな時間まで付き合わせてしまった。いやそれよりも…大事なアイドルと、関係を持ってしまった。
自暴自棄とは、恐ろしい。
「いや、自分でタクシーを呼ぶからいい。あんたも乗って行くだろ」
『ううん。私はここに泊まるよ』
「1人の家に、帰りたくないのか?」
『…うん。今日だけは』
「なら、俺のところに来るか」
『大丈夫。もう、自暴自棄はお終い』
私の返事が変わらないか、虎於はじっとこちらを見つめ時間を置いた。やがて、諦めたように立ち上がる。
「分かった。今日のところは、諦めてやる」
『ふふ、ありがとう』
明日の昼に迎えに行くと、退室しようとする彼の背中に声を掛けた。それから、ドアを引いたタイミングでさらに告げる。
『虎於』
「どうした?」
『貴方のおかげで、少しだけ龍のことを忘れられた。ありがとう』
「そうか。また何かあったら言えよ」
『うん分かった。じゃあ、おやすみなさい』
大きな背中が去って、ドアが閉まる音が部屋に寂しく響いた。
「……嘘を吐くのが下手だな。
あんたは、一瞬だって龍之介のことを忘れてなんかいなかった」