第101章 運命の相手には、いつ会えるか分からない
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口付けようとする虎於の唇を躱し、確認をする。
『いいんですか?私いま、相手は誰でも良いって気分なんですが』
「あぁ」
『変な人…。利用されるだけだって分かってて、わざわざ踏み込んでくるなんて』
「いいからもう、黙れよ。いま俺達に必要なのは、言葉じゃない。そうだろ?」
私が頷くより早く、虎於は唇を重ねた。
そのキスは、甘くて苦い、背徳の味。失った熱を、他の熱で補ってしまえと考えた私を、激しく責めて欲しいのに。彼の口付けは、ひどく優しかった。
ゆっくり離れた唇と唇を、透明な糸が切なげに繋いだ。それがぷつりと切れてから、私を見下ろす彼に問う。
『この部屋、内鍵があるんですよ』
彼は、覚えているだろうか。
この言葉は、私達が初めてこの部屋に足を踏み入れた時、虎於が口にしたものだ。
あの時は思いもしなかった。この場所でこの男と、こんなキスを交わすことになるなんて。
虎於は、ふ と口角を緩く上げた。この表情を見るに、当時を覚えているのだろう。
「知ってるさ。その内鍵は、さっき俺がこの手で閉めたんだからな」
いつの間に、という言葉は飲み込んだ。代わりに瞼を下ろす。するとすぐ、また虎於は口付けを落とした。
私は微睡む。慣れ親しんだ匂い、舌使いとは全く違ったけれど。
濃厚なキスに酔う。愛しい人の、サヨナラのキスを上書きする為に。