第100章 お前、龍のこと好き過ぎだろ
「実は、ずっと気になってたことがあって。
前にエリ、俺と話してて ほっとするって言ってただろ?それから、その感覚は十くんと話してる時と似てる。そうも言ってた」
【95章 2264ページ】
あれは、Re:valeの2人も含めた飲みの席だった。確かにそれは、私が万理に告げた台詞だ。
ゆっくり静かに頷いた私を確認してから、万理は落ち着いた声で続ける。
「勿論、愛のかたちに正解なんてない。でも付き合ってそう時間が経っていないのに、安堵感が大きな割合を占めてるのって違和感がないかな」
『いや…でも、ドキドキすることだって、あるよ』
私は、何をこんなに必死に言い訳じみた言葉を並べるのだろう。突かれたくない場所を突かれたように、少し腹が立って相手をやり込めたくなっているのだろう。
図星だと、心が認めているみたいじゃないか。
そんなこちらの気持ちを見透かしたみたいに、万理はさらに続けた。
「自分のことを引き合いに出すのは、ちょっと恥ずかしいけど。思い出して欲しい。俺と付き合ってた頃、エリの心は穏やかに落ち着いてたか?手を握れば癒されて、一緒に観た映画は楽しめた?」
『……っ』
脳の最奥にしまっていた記憶が、弾け出てくる。過去の、紛れも無い、本気の恋をしていた甘苦い記憶。そうだ、あれが 恋愛だ。
一緒に居ると胸が苦しくて、隣に並ぶと息が詰まりそうになって、でも全然いやじゃなくて、離れ難く思うあの感情。
龍之介のことは、もちろん好きだ。でも…
万理と付き合ってた時とは、全く違う。
手を握りあれば心が休まり、映画だって問題なく楽しめる。
ここからは、出来れば考えたくないことだ。しかし、見て見ぬ振りが出来ないのは私の性分なのだろう。
私には、ただ1人だけ存在する。
手を握っても、安堵するどころか心がザワザワし。映画を一緒に観ても、丸きり内容が入って来なかった人物が。