第100章 お前、龍のこと好き過ぎだろ
用を済ませ、ボックス席へ戻る途中。1人寂しそうに飲む万理の背中が気になった。椅子を引き、腰を下ろしてから声を掛ける。
『ずっとそこで、1人で飲むの?グラスに入ってるの烏龍茶なのに、格好つけちゃって』
「え?俺の背中、そんなに格好良かった?」
『そうは言ってない』
笑っていると、目の前に空いたグラスが用意される。すぐその中に、赤い液体が注がれた。どうやら、すぐにあちらへ戻れとは言われないらしい。
「ちょっと、気に触るかもしれないこと訊いていいかな」
『嫌な前振り。でもいいよ。なに?』
「もしかして十くんと、あまり上手くいってない?」
『……なんで』
「ちゃんと前置きしたろ?そう怖い顔するなよ」
『してない』
「してるから言ってるのに」
万理は申し訳なさそうに笑うと、頬杖をついた。私は否定も肯定もしないまま、どうしてそう思ったのかを問い詰める。
「いや、なんとなく。はたから見てて、エリが彼にやたらと気を遣ってるようだったから」
『…万理の気のせいじゃない?』
「そうか、俺の気のせいだったか。そうだよな…
お前がわざわざ皆んなの前で、彼と付き合ってる宣言したのも。八乙女くんに愛してるって言わなかったのも。好みのタイプを慌てて十くんに合わせに行ったのも、全部 俺の気のせいだ」
ぐうの音も出なかった私は、ただ天を仰いだ。
「えっと、悪い。ちょっとズケズケ言い過ぎた。べつに困らせたかったわけじゃないんだけど」
『本当に?』
「…まぁ、エリのキス顔を見られなかったのは、かなり残念だったかな」
『腹いせですか』
最大限の凄みを利かせ睨み付けるも、男はそれを笑顔で躱すだけだった。