第99章 間違ってると思ったことは、間違ってるだろってそう言いたい
虎於と巳波は、何か話をしているようだ。ここからでは会話の内容は聞き取れないが、表情は真剣そのものである。
「…眩しいな」
「強い憧れは禁物ですよ。その感情を持ってしまえば、自分達がその対象を越えようという意志さえ見出せなくなりますから」
「べつに、憧れちゃいないさ。ただ…この世に存在する全てのアイドルが、目指すべき姿はこれなんだと思っただけだ」
「それ、憧れているのとどう違うのでしょう」
「…全てのアイドルと言ったが、例外もあったな。俺達は、除外の対象だ」
「理由をお伺いしても?」
「俺達は…ŹOOĻは、3年間限定の使い捨てアイドルだからな。あそこまで高く上り詰めても、意味はないだろう」
「えぇ。確かに、その通りですね。ですが…どうしてでしょうか。意味がないとは分かっていても、この手を伸ばして掴みたいと、思い描いてしまうのは」
「分からない。だが巳波のその衝動は、俺にも分かる」
様々な想いを胸に、TRIGGERを見つめる私達。そんな中、プログラムは進んでいく。ライブの後半に差し掛かった時、私は鞄の中から手作りのうちわを取り出した。
まずは同じデザインの物を2枚。悠と虎於に差し出した。
「ん?何これ」
「あぁ、あれだろう。して欲しいファンサの内容が書かれたうちわ…って。おい。まさか、あんたはこれを俺に振れって言うつもりか」
『きっと楽しいですよ。ほら、ここまで来たら全力で楽しんでください。あぁでも頭の上より高い位置では振っちゃ駄目ですよ。後ろの人へ迷惑がかかりますから』
“ 撃って ” そう書かれたうちわを、まじまじと見つめる2人。やがて悠が、ぐっと顔を上向ける。
「っくそ!こうなったらヤケだ!やってやる!!」
「し、仕方ないな…」
悠は照れ臭さを払拭するように、手にしたそれを懸命に振る。虎於は顔を隠すようにして、遠慮がちに左右に揺らした。