第99章 間違ってると思ったことは、間違ってるだろってそう言いたい
急遽、席を確保してくれただけでなく待機場所まで用意してくれるとは。これでもう、姉鷺には足を向けて寝られなくなった。
彼は私達をこの場に置いて、足早に現場へと帰って行った。
テーブルに用意された、ペットボトルのお茶に手を伸ばす悠。そんな彼に私は声掛けをする。
『私は珈琲が飲みたいので買って来ますが、皆さんも何かご希望があれば仰ってください』
虎於と巳波はお茶で構わないと答え、トウマと悠はそれぞれ珈琲とオレンジジュースと告げた。
私は頷き、扉を少し押し開く。すると、廊下から声が漏れ聞こえてきた。
「まったく…どんな鋼のハートしてんだろうな。あの元プロデューサー様は」
「普通、平然とこんな場所に来れないよね」
「ŹOOĻの方が売れると見りゃ、簡単にうちのTRIGGER捨ててツクモ行った奴なのに。なんで姉鷺さんも、ここまで良くしてやるのか理解出来ないわ」
「ほんと。例のジャックライブもさ、実はあのプロデューサーも一枚噛んでたりして!」
「はは!それ、超ありそう!」
私は彼らに悟られないよう、そっと扉を閉めた。
まぁ、こうなることは八乙女を出る前から分かっていたこと。むしろ八乙女プロの中で、真実を知る者の方が少ない。私は所詮、自分の益の為に会社を捨てた薄情者。そういう認識なのだ。
だからべつに、今さら陰口を叩かれたくらいで傷付いたりしないのだが。ふと背中に嫌に視線を感じて、そろりと振り向く。
「…まぁ、その…なんだ。あまり、気を落とすなよ。あんたには、この俺がいる」
「オレらのせい、だよな。春人があんなにめちゃくちゃ嫌われてるの」
「ごめんな!もう何て言って謝ったらいいか分かんねえけど、もうめっちゃごめんな!!ちょっと今から、俺があいつらに本当のこと話して来る!」
「まぁまぁ。言いたい人達には言わせておけばいいじゃないですか。他の方がどう言おうと、私達は貴女のことが好きですよ」
なんだろう…。傷付くつもりなんてなかったのだが、こうあからさまに同情されてしまうと、人は逆にダメージを負ってしまうのだと知った。