第99章 間違ってると思ったことは、間違ってるだろってそう言いたい
「ボク達のライブを観に来てくれたんだね。ありがとう」
「!!」
天は、客席で固まっている悠に向けて語り掛ける。なかなか言葉を返すことが出来ない彼に、恐怖の呪縛から解き放たれた巳波が小声で告げる。
「ほら、亥清さん。笑って」
「え…あ、…へ、へへ…」
「そう。いいですよ。そして その余裕の笑顔を浮かべたまま、楽しいものを見せてくれてありがとう。と言ってください」
「たっ…楽しいものを見せてくれて、ありがとう!」
余裕の笑顔を浮かべたのは、天の方であった。
「本番では、もっと楽しいものを見せてあげるから。期待していいよ」
「っ、あ…えっと」
「亥清さん。楽しみにしてると、そう答えて」
「た、楽しみにしてるからな!!」
「はい。よく出来ました。そしてそのまま颯爽と立ち去りましょう」
「そ、そしてそのまま立ち去りましょう!」
「あらあら。それは言っては駄目な奴ですよ」
「っ!!ま、間違えた…!!」
「ふふ。相変わらず、愉快な子だね」
結局、最後まで天の雰囲気に飲まれたままだった悠は、急ぎ足で会場から走り去った。その後を、トウマと巳波も追い掛ける。
私は、再びステージを見上げた。そして3人に声を掛ける。
『私も、貴方達のステージを楽しみにしています。頑張って』
「うん。いつも通り、最高のステージにするから見ていて」
「君に心配をかけないように、完璧な歌を歌うよ!」
「……春人。あんなヘマは、もうしねえから。安心して、楽しんでくれ」
私は頷いて、隣にいる虎於と共に会場を後にした。