第99章 間違ってると思ったことは、間違ってるだろってそう言いたい
彼の顔は、赤く染まっていた。こんな顔色なのはきっと、それほど恥ずかしかったからだろう。それ以外に理由などないはずだ。こちらを全く見てくれない彼を前に、私は勝手な解釈をした。
『手が滑りましたか?』
「あ…、あぁ、悪い」
マイクを手渡す際、私と楽の指が僅かに触れ合う。その時に、チリっと音を立てて静電気が起きた。小さな痛みと驚きで、私と楽は、はっと顔を見合わせる。
スイッチが入ったままのマイクは、落下して大きな音を響かせた。
……なんだろう。
大きく見開かれた楽の瞳に飲み込まれそうになりながら、考えた。
私は、TRIGGERと走ってきたはずなのに。一緒に長い時を過ごしてきたはずなのに。どんなふうに楽の隣で笑っていたのか、思い出せない。
なんだろう。この感覚は、なんだ。
「ほら。大事な商売道具だろう。そう何度も落とすんじゃねえよ」
言って、拾い上げたのは虎於だ。その声で、私はようやく帰ってこれる。
マイクを手渡された楽も、私と同じような顔をしていた。しかしすぐに取り繕ったように、礼を言って差し出された物を受け取るのだった。
そんな楽には、制裁が待っていた。後ろから、天が彼の肩に手を置き告げる。
「本番で同じことが起きないように、キミの手とマイクをくっ付けてあげてもいい」
「……ボ、ボンドとかで?」
「アロンアルファ」
平然と瞬間接着剤の名を口にした天を見て、楽だけでなく龍之介も、近くにいた私と虎於も震えた。加えて、客席にいる4人も震えていた。つまりは全員が、天の黒い笑顔に震えた。