第99章 間違ってると思ったことは、間違ってるだろってそう言いたい
そして、TRIGGERの姿がないままに伴奏が始まった。周りのスタッフ達は、緊張の面持ちでステージを見つめていた。その様子に、私と巳波はピンと来る。
「…ポップアップでの登場、でしょうか」
『おそらく』
私が頷いたのと同時。スモークの中から、人影が飛び出した。高く高く跳躍したのは、天だ。次に龍之介。それから最後に楽。彼らは観客に背を向けたまま、歌唱に入った。
意表を突いた登場に、私達はリハーサルだということも忘れてステージに魅入ってしまう。
そして、曲が最高潮の盛り上がりに達したその時。3人が一斉に客席の方へ振り向いた!
その瞬間。私と楽の視線が、バチっと交錯する。
ŹOOĻと共に今日ここへ来ることは、彼らには伝えていない。よほど私の存在に驚いたのか、彼は明らかに動揺した。そして、激しいターンの振りと同時に、なんと彼のマイクが宙を舞った。
全員の視線が、空を飛ぶマイクに注がれる。長旅を経たそれは、やがて スポッと、私の手の中に収まった。
長い長い沈黙の中、歌われることのない曲だけが垂れ流しになっている。
唖然とする楽。困り笑いの龍之介。そして…アイドルがしてはいけない顔で怒りを露わにしている天。
私は隣で頭を抱える姉鷺に、マイクを向けて問う。
『え、っと…絶好、調?』
「やめて…今は、何も言わないで…お願いよ」
笑いを堪えるせいで、肩を震わせるŹOOĻメンバー。以前の彼らなら、ここで大笑いをしていたに違いない。それをしなかった4人を褒めてやりたい気分だ。
と、そろそろこれを持ち主に返さなければ。私は1人ステージに歩み寄ると、楽を見上げた。