第99章 間違ってると思ったことは、間違ってるだろってそう言いたい
同日の、午後9時。私は1人、BAR Longhi'sのカウンターに着いていた。服装は、いつもの男物スーツ。頭には、金髪のウィッグを載せている。エリの姿でトウマを出迎えることも考えたが、まずはこの姿で話をすることに決めたのだ。
あと少しすれば、彼もここへ現れるだろう。予(あらかじ)め、貴方の探し人をここへ呼んでおくと伝えてある。
私は、ショートグラスの中で揺れる赤い液体に口を付けた。ウォッカベースに、カシスやグレープフルーツの要素が入ったカクテルの名は、オーロラ。フルーティで口当たりの良いそれを飲みくだしながら、さきほど龍之介と電話で交わした言葉を思い返す。
トウマに、私こそが貴方を助けた人物であると明かす。そう告げると彼は、分かった。教えてくれてありがとう。そう言った。
局の地下にでもいるのか、電波が悪く声が聞き取りずらかった。途切れ途切れの言葉で、彼はさらにこう続けた。
“ 上手く、伝 —— あげてね。駄目だよ…?もう、—— みたいな男を —— たら ”
全文が聞き取れなかったので、聞き返そうかと思ったけれど。それは必要なかったから、やっぱりやめた。私には、龍之介が何を駄目だと忠告したのか予想出来たからだ。
それは、きっとこう。
もう、楽みたいな男を生んではいけない。
『……』
(楽にさせたみたいな辛い思いを、トウマにまで背負わせたくはない。だから私は、トウマには隠し事なんてせず全部話す)
春人とエリが同一人物だと最初から打ち明けてしまおう。そうすれば楽のように、居るのか居ないのかよく分からない女を探し続ける末路を辿る男は、きっと生まれない。