第99章 間違ってると思ったことは、間違ってるだろってそう言いたい
『狗丸さん』
「俺は行かねぇから」
『まぁそう結論を急がずに。決めるのは、私のカードを見てからでも遅くはないでしょう?』
「カード?なに言ってんだ?あんたって、たまに意味不明だよな」
どうやら、彼にはこういう比喩表現の類は向かないらしい。覚えておくとしよう。
気を取り直し、私は直接的な表現に切り替え交渉を試みる。
『貴方はまだ、悪酔いした自分を介抱してくれた女性を探していますか?』
「当然だ」
『そうですか。律儀な人ですね。たかだかトイレで酒を吐かせてもらっただけでしょう。
まぁいいです。仮にその女性を、トイレゲロの君と名付けます』
「俺の恩人に最低なアダ名付けるんじゃねぇよ!!」
私とトウマが話し合うのを、他の3人は菓子をつまみながら観覧していた。
「トイレゲロの君?私は知らないお話ですが、皆さんはご存知なんですか?」
「知ってる。あ、そっか。その話した時、巳波いなかったんだ」
「ふ、付き合いが悪いとこういうことになるんだぞ。どうだ?自分1人が仲間外れにされた気分は。知りたいだろう?トイレゲロの君とトウマの出逢いを」
トウマは彼らに向かって、嫌なアダ名を定着させるなと叫んだ。狂犬よろしく3人に牙を向ける彼の肩を、私はとんとんと叩く。
「なんだよ!!」
『私が、トイレゲロの君と貴方を引き合わせます』
彼は、大きく見開いた目に私を映した。
しかし、丸く大きかった瞳は すぐに鋭く尖る。
「…適当なこと言うな」
『まぁ疑いたくなる気持ちも分かります。ですが事実です。私には、それが出来る』
「春人、ゲロ女と知り合いなの?」
「…ちょ、ハル。その呼び方マジでやめてくんない?」
興味津々でこちらへやって来た悠。私はその質問に頷いた。まさかここで、私がその本人であると暴露する訳にはいかないから、とりあえず知り合いということにしておこう。
すると今度は虎於が、私の隣へ歩み寄った。
「へぇ。それはまた、随分と都合が良い話だな?知り合いねぇ、なるほどなぁ」
そのにやにやした表情を見れば、彼が真相に辿り着いているのだと感じざるを得ない。私はそんな虎於を無視してトウマに向き直る。