第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
「あぁそうだ。そういえば、眠った君をここまで届けてくれたのは、虎於くんだったよ」
『え。虎於が?
……私、服 着てた?』
「着てたけど!?」
寝てる間に、何か悪戯されなかっただろうか…。私が唸っていると、龍之介は困り顔で告げる。
「彼の他にも、悠くんとトウマくんも一緒だったよ」
『あ、そうなんだ』
「うん。でもその2人は、俺達が一緒に暮らしてるのを知らなかったみたいで、すっごく驚いてた」
『はは。そうだろうね。
喧嘩、しなかった?』
「え?俺と、虎於くんが?あははっ、しないよ!わざわざ送り届けてくれたのに!」
『そう。ふふっ、良かった』
そこまで話すと、彼はキッチンへと向かう。私の為に、食後の紅茶を淹れてくれるというのだ。私はありがたくお言葉に甘えることにした。
頭上の棚に手を伸ばし、茶葉の種類を選びながら龍之介は言う。
「なんだか、ŹOOĻの雰囲気が変わったような気がする」
『本当?そう、思う?』
「うん。丸く、というか…柔らかくなったかな」
『そっか。龍の目からも、そう見えたんだね。だとしたら、嬉しい』
「良かったよ。彼らとの関係が、上手くいってるんだって伝わってきた」
自惚れかもしれないが、私自身もそう思う。
汚い大人に慣れ過ぎたせいか歪みを抱えていた悠は、ŹOOĻという新しい場所で幸せになりつつある。
恵まれた環境ゆえに、沢山の物を持っていた虎於は、本当に価値あるものをŹOOĻで見付けようとしている。
真剣に歌うことをやめたがっていたトウマは、再びŹOOĻの中で本気を出すことを考えている。
冷めた瞳でŹOOĻを見ていた巳波もきっと、他のメンバーと共に上を目指すことに熱意を見出せるはずだ。
その手伝いがもし出来ているなら、私が今 彼らと共に歩いている意味は十分にあるのではないか。
「ちょっとだけ、妬けるけどね」
『え。何それ、可愛い』
「っ…、も、もう言わない」