第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
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私は、曲を作っていた。
まるでシャボン玉みたいに、宙でふわふわ浮かぶ沢山の言ノ葉達。それらを、そっと手探りで集めて。大切に並べて。
“ 死 ” と “ 生 ” と
“ 置いて行かれた者 ”
“ 春 ”
“ あぁ、悲しい。悲しいな ”
立派な言葉なんて必要ない。格好良い振り付けも、気分を盛り上げる為のメロディも。必要ないのだ。
ただ、心を込めるだけ。この曲に詰め込むものなんて、それだけでいい。
“ 死んだ人間のことをいくら想っても、そいつは生き返らないし、まして喜んだりもしない。結局、生きてる人間は生きてる人間にしか影響を及ぼすことが出来ないんだ ”
……あれ?この言葉は、一体 誰が…言ったんだっけ。
『う、ん……』
「エリ!良かった…目が、覚めた…!」
『あ、れ?…龍?』
「うぅ、良かった、本当に…」
起きるとそこは、我が家だった。ベットに横たわる私を、目を赤くした龍之介が覗き込んでいる。
頭がぼーっとしていた。しかし、思考は回るし体も軽い気がする。
沢山 心配を掛けたであろう龍之介に手を伸ばすと、彼はそれをとってぎゅっと握り返してくれた。
『ごめんね、龍。ところでさ…今って、何時?』
「えっと…9時」
『9時?それって…朝の?夜の?』
「よ、夜の」
『えぇ!?じゃあ私、ほとんど丸々1日寝てたってこと!?』
もう、体内時計など役に立たない。そんなものは、とっくにぶっ壊れていたのだから。私は龍之介から告げられた驚愕の事実に絶叫した。
しかし、彼はまだ何か言いたげだ。しばらくもじもじとしていたが、やがて意を決したように口を開く。
「48時間…」
『え?』
「君が…寝てたの。1日じゃなくて…丸、2日なんだ」
さらなる事実の発覚に、私は2度目となる叫び声を上げた。