第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
トイレに篭り、吐くものを吐いたら幾分かはスッキリした。しかし疲労と寝不足は、相変わらず重くのし掛かってくる。とにかく、これ以上は龍之介に心配を掛けるわけにはいかない。
私はなるべくしっかりとした足取りを意識して、リビングへと戻る。
「エリ、平気?」
『あぁうん。大丈夫…。ごめんね、グズグズなとこ見せて』
「いや、それはいいんだけど…でもちょっと、驚いたかな。混ざってたから」
『混ざってた?』
「え?あぁ、ごめん。大丈夫こっちの話!」
(そうか、無自覚だったのか…)
こんな時間まで、起きていてもらってごめん。約束を守れなくてごめん。連絡すら出来なくてごめん。
もう、どこから何を謝ったら良いのか分からない。
『龍…ごめんね』
「謝らないで。俺は本当に、これっぽっちも怒ってないんだから!
それより、何か食べる?それともシャワー?」
『…ごめん。休む…』
「そう、だよね。顔色も悪いし、寝た方がいい」
『うん。ぎゅって、してくれる?』
「するよ」
『寝るまで、何か話をしよう』
「いいよ。何を話そうか」
龍之介は言いながら、私の身体を抱き上げた。逞しい彼の腕の中で、目を閉じる。それはどんな寝具よりも心地が良くて、優しく私を包み込む。
『ん、そうだ、ね…。じゃあ、最近の…TRIGGERの、話』
「俺達の話?」
『うん…どう…?皆んな、元気で仲良く、やってる?』
「君に比べたら、皆んな元気だよ」
『ふふ……』
「でも…そうだな。最近は、楽の様子が少しおかしい かな」
私は、寝室に着く前に眠りに落ちていた。
「…寝ちゃったか。
ねぇ、エリ…。俺は、一体どうしたら良いんだろう」
龍之介は、確かにSOSを出してくれていたのに。私は自分のことに手一杯で、気付いてあげることが出来なかった。
もうその時点で、私には彼の隣にいる権利はなかったのだろう。