第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
朦朧とする頭で、タクシーの運転者に声を掛ける。
『う……、あ の』
「お兄さん、だいぶ飲んでるねぇ。お願いだから、吐かないでよ?」
『あぁ…それは、大丈夫。ところで、お願いが。ちょっと、適当なコンビニで…栄養ドリンク、買って来てもらえません?1番、高い奴…これ、お釣りは…いらないん』
財布から五千円札を取り出したところで、意識が途絶えた。
「着きましたよ!お客さん!!おーーい!」
『ん……あぁ、』
どうやら、30分ほど寝ていたようだ。しかし泥酔も相待って、休めた気は全くしない。
運転者は心配顔を浮かべて、私に凄十とお釣りを手渡した。
体を引きずるようにして、龍之介が待つ家へと帰る。結局、遅くなるという連絡を入れることが出来なかった。午前4時になろうとしているが、彼はきっと、起きている。
「 っ…エリ!」
龍之介は、玄関先で私を強く抱き締めた。そんな大きな背中に、ゆっくりと手を回し告げる。
『…ただいま』
そして彼に支えられリビングに行き、椅子へと腰掛ける。
「水、飲むよね?あぁそれとも、スポーツドリンクの方がいいか、あとは」
『龍…』
「え?何か言った?」
『すみません、でした。クリームコロッケ…食べられなくて。私も、すごく楽しみにして、たんですが』
「……エリ」
『とりあえず、トイレ行って、来るね』
私には、龍之介がどうしてこんなにも驚いているのか分からなかった。自分では気付いていなかったのだ。
エリと春人が、ぐちゃぐちゃに混ざっていたこと。