第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
当然のように巳波は、チケットを見て乗り場を確認しようとする。私は封筒を開封しようとするその手を止めた。
『私が今からゲートまで案内しますので、チケットはそのままポケットへどうぞ』
「……。
皆さん、それぞれ飛行機が違うということは乗り場も違いますよね?どうして私だけ、貴女のアテンド付きなのですか?」
『えーと…それは、ただの 贔屓です』
「私を、贔屓…」
微妙な空気感が、その場にいる全員を包んだ。すかさず、悠が助け船を出してくれる。
「オレらは、お土産屋さんとか見て回ってから勝手にゲート向かうからいいの!だから巳波は大人しく春人に贔屓されてて」
「大阪の空港ではなく こちらの空港で、一体なんのお土産を見」
『ほら、時間がありません。急ぎましょう』
巳波がこれ以上の詮索をする前に、私は彼の腕を引いて歩き出した。無論、向かうのは大阪行きの乗り場ではない。
きっと彼も、もう薄々感づいているのではないだろうか。国内線ではなく、国外線へと向かうエスカレーターの途中で声を掛けて来た。
「あの。大阪行きの乗り場は、こちらではないのでは?」
『いえ。大阪行きの乗り場は、こちらであっています』
背中に、凍り付くような視線を感じる。
「大阪へ向かう飛行機は、あちらでは?」
『大阪へ向かう飛行機は、こちらです』
一切 後ろを振り向かずに宣言する。
「あの、お客様。こちらのエスカレーターは、国外線へと続いております。もしも大阪行きの乗り場へ向かうのであれば」
『お…大阪行きの飛行機は、こっちで合ってるんです!!』
「え…あ、しかし」
「すみません。お気になさらないでください。この方、少し可哀想なんです」
『うぅ…こっちは、大阪行きの…』
「はいはい。分かりましたから。とりあえず行きましょうね」
まさか、運悪く従業員に声を掛けられてしまうとは。どうしてもあっちを大阪行きにしたい私に、彼女は可哀想なものを見る目を向けるのだった。