第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
翌日。私達がやって来たのは空港である。明日、大阪で行われるŹOOĻのライブ。その為に前乗りする為だ、と この棗巳波は思っていることだろう。
「…すごい荷物ですね」
『そうですか?』
特大キャリーケースをゴロゴロやっている私に、巳波は言った。
「一体、何が詰まっているんです?」
『ガウンとかマフラーとか、耳当てとか手袋とかカイロとかですかね』
「風邪でも引かれているんですか?ぜひ、近寄らないでくださいね」
なんとも愛のある台詞に目を細めていると、袖が後ろへと引かれる。私を呼んだのは、悠だ。
「おいっ…いくらバレてもいいって言っても、大っぴらに言い過ぎだろっ、馬鹿…!」
『でもこれ、いずれは棗さんに持たせますし、中に防寒具が入ってること伝えとかないと…ノースメイアに着いた途端、凍死するかもしれないでしょ』
「子供じゃないんだから大丈夫だって!」
こそこそ話す私達を、不思議そうな顔で見つめる巳波。すかさず虎於が作戦に移す。
「巳波。これ、お前のチケットだ」
「ありがとうございます」
「なんでも飛行機が混み合ってるらしくてな。まとまった席が取れなかったらしい。そういうわけだから今回は、皆んな乗る飛行機がバラバラだ」
「…席がバラけるのは よくあることですが、飛行機もバラバラなんですか?」
「まぁ…たまには、そういうこともあるだろう」
チケットが入っている封筒を受け取りながらも、彼はやはり訝しげだ。今度はトウマが勢い良く参入する。
「あっはは!なんだミナ、もしかして飛行機怖いのか?だから皆んな一緒がいいんだろ!」
「そんなこと、私が一言でも言いましたか?飛行機が怖いなんて、そんな子供みたいなことあるはずないじゃありませんか」
私は、負わなくても良いダメージを負った。