第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
「あいつは自分の胸の内を隠すのが上手いからな。俺にも、確実なことは言えない。が、本心からノースメイアに行きたくないと思ってるわけじゃないと思うぜ」
『やはり、そうですよね』
「あぁ。巳波の奴、笑ってなかったからな。あいつのあんな顔は、珍しい。心の中では、揺れてるんじゃないか。会いには行きたいが、プライドとか嫉妬が、それを邪魔してるんだろ」
彼の言葉が、自分の考えとおおよそ重なったことに安堵を覚える。まぁ仮に、巳波が本気で嫌がったとしても私がやることは変わらないのだが。
「ふーん。なんか面倒臭いんだな。プライドとか、嫉妬とかさ。そんなもん全部捨てて、会いたいなら会いに行けばいいのに」
「ふ。大人の男は、そう簡単に かなぐり捨てられないような物を山のように背負ってる。そういうもんだ」
あ、そ。と吐き捨てる高校生の隣で、もう1人の大人の男が首を捻っていた。
『とにかく。棗さん本人が、本気で嫌がっていないなら難易度はぐっと下がります。希望が見えて来ましたよ。
私に作戦があるので、聞いてもらえますか?』
3人が私の傍に寄って輪になると、その作戦の説明を始めた。なんてことはない。至ってシンプルな行程のみの作戦である。
聞き終わるや否や、悠は渋い顔で唸った。
「えぇ…?それ、大丈夫?巳波じゃなくて、オレでも気付きそうな雑さなんだけど」
『そうでしょうね。いま思い付いた作戦ですから』
「いや、大丈夫だろう。大切なのは、きっかけを与えてやることだ。作戦自体がバレたとしても、問題はない。そうだろ、春人」
『その通りです。きっと棗さんは、この作戦に気付く。でも、彼が本心では桜さんに会いたいと思っているなら…』
「分かった上で、この作戦に乗っかるってことだな。はは!どんなけ俺達がお膳立てしてやらなきゃならないんだよ!世話のかかる奴だな、まったく!」
『ふふ。その割に皆さん、全然嫌そうじゃないですね。
仲間の助け合いって、そういうものですよ』
あえて言葉にしてみた “ 仲間 ”
彼らは、自分の隣に立っている男に目を向けた。気まずそうに視線を泳がせたのは、ほんの一瞬で。その口元には、薄っすらと笑みが浮かんでいたのだった。