第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
図らずしも、溜め息が出た。しかし、収穫がなかったわけではない。予想もしていなかったところから、ぼた餅が落ちて来た。まさか、彼らの協力が得られるとは思っていなかったのである。
『ありがとうございます。貴方達が、棗さんのノースメイア行きに賛同してくれるとは思ってませんでした』
「そりゃ…!あんな話、聞いちゃったらさ…」
「まぁ、俺はどっちでもいいがな」
「トラは素直じゃないな!心の中ではミナのこと、ちゃんと考えてるくせに。
っつーわけで、俺らも協力する。これはべつに、アンタの為じゃない。ミナの為だ」
トウマは、ポケットの中をガサゴソやりながら続けた。
「だからこれ、返すぜ。もう金なんか渡してくんなよ?なんか買収されてるみたいで気分悪いんだよ」
そして彼は、私の手の上に札を置いた。よく見なくてもそれは…千円札であった。
私達は漏れなく、その金額に目を丸くして固まってしまう。
『えぇー…。このシリアスな空気の中、よくこういうことが出来ますね』
「!?ち、違…っ、これは、ただ間違えただけだ!」
「はぁ…そんなに金に困ってるなら、相談しろよ」
「だから違うって!ハルは、信じてくれるよな?な!?」
「トウマ最低。さすがに引く」
ついには悠にまで辛辣な言葉を吐かれ、がっくり肩を落とすトウマ。だがすぐに動き出し、私の手の上の千円札と一万円札を交換した。
お遊びはこれくらいにして、本題に戻す。
『虎於。さきほど、棗さんのことをじっくり観察していましたよね。どうでしたか?貴方から見た、彼の本心は』
「あぁ…そうだな」
向かい合う私と虎於の隣で、トウマと悠は顔を見合わせていた。驚いた表情で、そうだったのか…!と呟いている。どうやら、虎於が巳波に対して口数少なかったことに違和感を持っていたらしい。