第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
言いながら入って来たのは、今頃 局の茶店で一服しているはずの3人だった。盗み聞きしていたことを悪怯れる様子も見せず、巳波に詰め寄るところが彼ららしい。
「あらあら皆さん。私が知らない間に、随分と仲良くなられたんですね」
「ミナ!今はそういうこと言ってる場合じゃないだろうが!」
トウマは、自分の持てる言葉を真っ直ぐに巳波に伝えた。春樹に会いに行けと、精一杯 説得をする。しかし、彼は聞く耳を持たない。
今度は悠が、不服そうな顔をして巳波に歩み寄る。
「あのさ、いま会っとかないと後悔するんじゃないの?」
「もしそうだとしても、亥清さんには何も関係ありませんので」
「何だよそれ!人がせっかく心配して言ってるのに!」
「頼んでいません」
「…ふん!可愛くねぇの」
「あなたは可愛いですよ」
「腹立つなぁもう!!」
遊ばれて終わった。
見事に惨敗したトウマと悠は、同時に虎於を見やる。視線を集めた虎於は、気怠そうな目をして後ろ頭を掻いた。そしてゆっくりとした足取りで、巳波の前へと歩み出た。
しばらく、彼は何も言葉を発しなかった。ただ黙って、巳波を見下ろす。巳波もまた一切 目を逸らす事なく、視線を返していた。
重苦しい時間がしばらく続いた後、ようやく虎於が口を開いた。
「いいんだな?」
「…さきほどからずっと申し上げてるのですが。どうも伝わっていないようなので、改めてもう一度言って差し上げますね。
私に、貴方がたのお節介な願望を押し付けないでください」
不快感を露わにした巳波は、不愉快ですと言い残し、楽屋を出てしまった。