第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
翌日の仕事終わり。私は楽屋からŹOOĻメンバーを追い出した。追い出したのは、3人だけ。虎於、トウマ、悠の3人である。
それは楽なものでなかった。どうしてだ?なんで巳波だけ残すんだ?と、彼らは私に詰め寄った。代表してトウマに一万円札を握らせ、これで茶店にでも行ってくれ!と強引に丸め込んだのだ。
「それで?私に何かお話があるんでしょう?」
『はい』
「こちらには何もありませんし、一万円と同価値の時間を貴女に提供出来るとは思えないんですけどね」
こっそりと行ったつもりの裏取引だが、どうやらしっかり見られていたらしい。巳波は人を食ったような笑顔を浮かべ、僅かに顔を傾けた。
『今から私が言うことに貴方が首を縦に動かしてくれたなら、一万円なんて安いものです』
「そう言われてしまうと、意地でも横に動かしてしまいたくなりますね」
『今すぐにでも、ノースメイアに飛んでくだ』
「嫌です」
巳波のことだ。素直に頷いてくれはしないだろうと覚悟はしていたが、まさかここまで食い気味で断られるとは。ナギの願いを叶えるには、相当 骨が折れそうだ。
『えー…と。スケジュールなら、なんとか調整します』
「そういうことを気にしているのではありませんので、お気遣いなく」
『じゃあ、どうしてそこまで頑ななんですか?あ、もしかして飛行機怖いとかですか』
「馬鹿にしてます?」
決して馬鹿にしたわけではないのだが。巳波は不機嫌そうに眉根を寄せた。
「貴女の方こそ、頑なですね。どうして私をノースメイアへ行かせたいのか。もう少し詳しく説明したらどうですか」
『分かりました。私の憶測も多分に含みますが、お話します。
ノースメイアに、桜さんがいるんです。そしておそらくですが彼は…体をひどく、病んでいる。
だから、無理にでも時間を作って会いに行ってください』