第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
「エリ…?」
『あ、ごめん。起こしちゃった?』
切ったばかりのスマホを眺めていると、後ろから声が掛かった。すぐに廊下へと繋がるリビングの端に目をやる。
そこには、眠気まなこを擦り立っている龍之介の姿があった。よく見れば、スリッパも履いていない。目を覚まして隣に私が居ないことに気付いてから、すぐ探しに来たのだろうか。
「ううん。大丈夫…ふわ…ぁ」
私はスマホをポケットに入れ、欠伸をする龍之介の元に歩み寄る。そして、跳ねた彼の髪をゆっくりとした手付きで撫で付けた。
「電話、してた?俺もしかして邪魔しちゃったかな」
『ううん。ちょうど終わったところだったから』
「そっか。もしかして、仕事?」
『仕事じゃないよ』
時計を見上げ、時刻を確認しながら問う彼に向かって首を振った。そしてポケットに入れたスマホを一度取り出し、もう真っ暗になってしまった画面を見つめながら言葉を選ぶ。
『大切な、友達から』
「こんな時間に?もしかして、その友達に何かあったのか?」
『それは、分からない。
…はっきり強く言われたわけじゃないけど、助けを求めてたと思う。普段は、我を通してまでそんなこと言う人じゃないの。でも、私に頼むって言ってた』
「そうか…。だったら、助けてあげないとな。エリの大切な人なんだったら、俺にとっても大切な人だ。何か、手伝えることはある?」
『ううん。今は、大丈夫。でももし協力して欲しいことが出来たら、遠慮なく頼らせてもらうね』
分かった。と言って、今度は龍之介の方が私の頭を撫でる。
「上手くいくといいな、友達」
『うん』
ナギが、早く日本に戻れますように。IDOLiSH7の、1/7に早く戻れますように。
そして桜 春樹が昔の笑顔のまま、再びこの日本の地を踏めますように。