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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?




《 アナタの心遣いに、感謝します 》

『まぁ、最善を尽くしてみます』


ナギの声色が、久しぶりに緩んだ。私もつられて ほっとする。
彼がいま、何の為に 何と戦っているのかは知るところではない。しかし私が頼みを聞くことによって、少しでも彼の助けになれば嬉しい。


《 駄目で元々。という奴を、訊いてみても良いです? 》

『どうぞ』

《 アナタも、こちらに来ることは出来ませんか? きっとハルキも…それを望んでいる 》

『ごめんなさい。今の私は、自由に動ける立場にないんです。近所のカラオケ行こう、くらいの誘いであれば乗れるんですけどね。流石に国外は…厳しいです』

《 ALRIGHT. 気にしないでください。アナタならきっとそう答えるだろうと思っていました 》


言葉とは裏腹に、ナギの声は悲しい色を孕んでいた。聞いていると、勝手な想像だけが膨張していく。
異様な時間の、突然の電話。
彼らしくない、他力本願な依頼。
ずっと消息不明だった友人の、突飛な出現。

もしかすると、桜 春樹は…もう、すぐに…


《 最後に、伝言をお願いしても? 》

『えぇ。誰に、何を伝えますか?』

《 …えっと、そうですね。IDOLiSH7の、メンバーに… 》


珍しく歯切れの悪い言い方に、私は違和感を覚える。


《 Umm…困りました。彼らに言いたいこと、伝えたい言葉が…上手く、まとまりません 》

『あぁごめんナギ。気が変わった』

《 !? 》

『その伝言は、承れません。ははっ。大事なことは、しっかり自分の口で伝えなきゃ。ちゃんと帰って来てから。ね 』


電話口の向こうから、小さく息を吐く気配がした。笑ったのか、溜め息か、嘲笑か。私には、一体どれだったのか分からない。
しかし、答えは決して悪いものではなかった。


《 YES. 精一杯の努力をしてみます。ですので、ワタシがもしまた日本に帰れたその時は…近所のカラオケにでも、共に参りましょう 》

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