第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
驚くくらい、満ち足りた気持ちだった。
思いもしていなかった。他人とこんなふうに打ち解けられるなんて。
今まで、いつも笑顔でいる人間を見ると、不思議に思っていた。
どうして、何が楽しくてへらへら笑っているのだろう。本当に嬉しいから笑っているのだろうか?それとも、適当に笑顔を浮かべているだけじゃないのか?
この俺と、同じ様に。
でもきっと、もうそういう人を見たとしても不思議に思うことはないと思う。
俺は今日、知ったからだ。世界には、美しくて楽しくて面白いものが満ち満ちていること。今まで俺が、冷え切った瞳で見つめていた物も、案外 悪くはないってこと。
そして出来ることなら、いつかはそれを この手中に収めたい。欲しいものをただ見つめているなんて、俺らしくないだろう?
「春人」
『えっ』
「なんだ、その顔は。あんたが言ったんだろう?その格好の時は、こう呼べって」
『いや、それはそうですが』
エリは、目を丸くして数回 瞬きをした。そんな彼女に、俺は告げる。
「あんたさっき、俺のことを知りたいって言ったな」
『はい。まぁ徐々に』
「俺の好きな物も、教えてやってもいい。だがそれは、あと1時間程ここで暇を潰してからだ」
首を傾げるエリを見てから、まだ無人のステージに視線を移した。
『何でしょう。虎於が好きなもの…そう焦らされると、気になりますね』
「…あまり人に話したことはないからな。それがどんな子供っぽいものでも、絶対に 笑うなよ?」
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