第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
驚きはしたが、決して不快ではない。それは、相手が彼女だからなのだろうか。
目の前がチカっと光って、暴風に見舞われたみたいな、人生で初めて味わう心地。何も言えない俺に、彼女は続ける。
『そんな貴方を、私は信じてみると決めました』
「…はは。あんた…お人好し過ぎる、だろう。裏切られたら、どうするんだ」
『自分を本気で信じている相手を裏切るのは、勇気がいるでしょう。信頼に対し、易々と不義理で応えられるように、人間ってやつは出来てないんですよ。
つまりね、もう貴方は…私を裏切れない』
目の前の、チカチカしていた光が甘やかな明かりに変わる。台風みたいな暴風は、春風に変わって俺を包み込んだ。
あぁ、俺は…この悪戯な笑顔の彼女を、どうしても捕まえてみたい。
伸ばしかけていた腕を、なんとか下ろして小さく問う。
「なぁ。どうして、俺に…俺達にそこまで尽くせる?ただ、TRIGGERのことを守りたい。それだけじゃねぇだろ」
『そうですね。分かりやすく説明しましょうか。
さっき貴方は、メロンパンを食べて感動した。好きになった。そして思ったでしょう。これを、もっと多くの人に食べてもらいたい。知ってもらいたい。その為に、自分が力を貸したいって。
きっと、それと同じですよ』
俺は、彼女の言葉を聞いて顔を俯けた。きっと、今とんでもなく情けない顔を晒しているから。どうしても隠したくて、力なく笑った。
「おいおい。俺は、メロンパンと一緒かよ」
『まぁ…。あぁでも虎於は、メロンパンとは似ても似つかぬ味でしたけどね。甘いどころか苦かった』
「…あんたがたまに そうやってぶち込んで来るブラックジョークは、斬れ味が半端じゃないよな」
『ふふ。ありがとうございます』
「褒めては、ないんだが」
途端に下らなくなった会話に、俺とエリは顔を見合わせて笑った。