第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
「幸せそうな顔で食ってるな」
『幸せですから』
「あんたの幸せは、たった150円で買えるのか。安上がりな女だ」
言ってから、俺も彼女に倣って それに齧り付いた。
「!! 美味い!」
『でしょう?』
メロンの味は全くしないが、砂糖のまぶされたカリっとした外側と、ふわふわのしっとり生地が絶妙なハーモニーを奏でている。かなり腕の立つパン職人が焼いているに違いない逸品だ!メロンの味は全くしないが。
「これが、150円…だと?何かの間違いだろう。これなら、倍の値段…いや、3倍でも売れる。上層部の人間が、不憫なくらい経営センスに恵まれていないんだろうな。少し、店主と話してくる」
『待ってください。値上がりしたら困るんで待ってください』
立ち上がった俺のジャケットの裾を、エリは懸命に引いて懇談する。
仕方なく、このメロンパンを世に羽ばたかせることを諦めた。
『でも、気に入ってもらえて良かったです』
「正直言って驚いた」
『この曜日にこの場所へ来れば、いつでも食べられますよ』
「それは、朗報だが…。あんたは、どうして俺をここに連れて来たんだ?」
結局、いくら考えても答えは見つからなかった。まさか、デパートの屋上に連れて来られて、並んでパンを食べることになるとは。
『理由…は、べつにありませんよ。ただ、私がメロンパンを食べたかっただけなので。
まぁ強いて言えば、私が好きな物を知って欲しかったから?でしょうか』
「??」
『私の思い出の味って奴です』
「答えに、なってねぇよ」
2つのパンをすっかり完食してから、エリは微笑んだ。