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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第97章 諦める理由にはならねぇだろ?




楽しそうな親子連れ。チープなメリーゴーラウンドに、どこからか漂ってくる甘い匂い。
デパートの屋上はまるで、小さな遊園地だ。こうもしっかりと眺めたのは、初めてかもしれない。


「あ」


つい声を漏らしてしまった。
俺が目を止めたのは、ヒーローショーの公演スケジュールだ。14時の次は、16時半となっている。まだ1時間以上もあるのか。さすがに、それだけの時間をここで過ごしはしないだろう。


『どうかしましたか?』

「いや、べつに」

『そうですか。では、ここで少し待っていてください』


それだけを言い残し、エリは颯爽と移動を開始した。
なんというか、もう少し食い下がっても良いと思うのだが。俺という存在に、興味など微塵もないのだと思い知らされるみたいだ。


ぼんやりと、無人のステージを見つめて彼女を待つ。ステージとは言っても、仮設のチープな舞台だ。簡素なのは、いま腰掛けている青いベンチも同じ。背もたれすらありはしない。
しかし あと1時間もすれば、ここではヒーローショー目当ての子供達がわんさかと集まって来るのだろう。

やがて、エリが帰って来た。手のひらサイズの白い紙袋を、3つ持って。そして、その内の1つをこちらに手渡した。


『どうぞ。あげます』


受け取ると、それはほのかに温かい。折り畳まれた口を開け、中を覗く。入っていたのは、メロンパンだった。

エリが歩いて来た方向に視線を投げる。そこには屋台があり、ひとつ150円、焼き立てメロンパン。の文字があった。

すぐに隣を確認すると、エリは既にパンを齧り始めていた。

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