第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
連れて来られたのは、とあるデパートだった。どうやら、暴力に訴えるつもりはないらしかった。だったら、こいつの狙いはなんだ?
俺が頭をひねっていると、上等なスーツに身を包んだ初老の男がこちらへ駆け寄ってくる。どこかで見た顔だ。俺は本のページを繰(く)るように、頭の中からこの男のデータを引き出す。
そうだ。こいつは、うちが贔屓にしている仕立て屋の支配人だ。
「これは御堂様!いつもお世話になっております。先日も、お父様には特別な注文をいただいたん」
「そうか。だが、今日はプライベートなんだ。何かあるなら、直接 親父の方に話してくれるか」
「し、失礼致しました!それでは、どうぞごゆっくりお過ごし下さいませ」
「そうさせてもらう」
そんな会話をしながら、ピンと来た。エリの目論見の検討がついたのだ。
「…なるほどな。このデパートには、御堂グループと取引のある高級店も多く入っている。エリ、何か欲しい物でもあるんじゃないか?」
昨日の詫びにと、金品を要求するつもりだろう。
いいぜ、なんでも買ってやる。そう続けようとしたのだが、彼女はスタスタとエレベーターに乗り込んだ。そして押したパネルの階数は…屋上であった。
「は?」屋上?
『さっき、何か言ってました?』
「あ、いや…何か、欲しいものがあるんじゃねぇかって話を」
『欲しいもの…欲しいものですか。そうですね…
あ。そうだ』
「ふ、あるんだろう?屋上にはブティックもジュエルショップもないぜ?早く戻っ」
『家のゴミ袋が切れそうだから、買わないといけないんです』
「それは……自分で買ってくれ」
『??はい。思い出させてくれて、ありがとうございました』
俺達を乗せた箱は、チンとベルを鳴らした。