第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
もう少し、この男で遊んでみようか。
俺はポケットの携帯を取り出して、飄々と告げる。
「今の会話、録音してた。って言ったら、あんたどうする?」
「……」
「俺のことを、はっきり殺すって言ってたからな。これが世に出れば、そちら側は相当困るんじゃないのか?」
「世に出て困るのは、そっちも同じだろうが。性奴隷だの契約だの、ファンはそんな言葉、あんたの口から聞きたくないだろ」
「俺の心配をしてくれるのか?優しいねぇ。だがそこは当然、世に出す前に上手く編集させてもらうさ」
言葉を切り貼りして、相手が不利になる部分だけを公表する。そんなものは、暴露の鉄則である。
しかし楽は、狼狽するどころか落ち着き払っている。この余裕は、一体どこから来るのか。
「そうか。だったらその時は、俺がこれを公表させてもらう」
「!!」
彼は、俺と同じように携帯をポケットから取り出して言った。画面には、RECの文字。
「ははっ、やるな。お前もはなから、録音してたってわけか。これじゃ偽造データは使えない」
「お互い、これが世に出ないことを祈ろうぜ」
「八乙女楽、思ってたよりクレバーだな。もっと暴走しやすいタイプかと思ってたんだが」
「これでも必死で頭使ってんだ。俺が独断で暴走して、TRIGGERを危険な目に遭わせるわけにゃいかないだろ。
これまでずっと、仲間と…春人と一緒に戦ってきたんだ。そうやって守ってきたもんを、簡単に失って堪るかよ。だからこれからも俺は、持てるもん全部使って戦っていく」
どうやら彼は、さきほど俺がお姫様扱いしたことを根に持っているらしい。またも憎悪に濡れた瞳を、こちらに向けた。