第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
「ぶっちゃけて言うと、今すぐに春人をお前らから引き剥がして、うちの事務所に連れて帰りたいと思ってる。でも本人がそれを望んでないっつーんだから、仕方ねぇよな」
「望んでない?」
「あぁ。あいつから、さっき言われた。今はとにかく、ŹOOĻの傍にいたいんだと。
…なんか、思い出したら腹立ってきたな」
「心の底では、TRIGGERよりも俺達がイイって思ってたんだな」
俺のこの言葉は、本心であった。冗談を言ったつもりは毛頭ないし、まして楽を笑わせてやろうなどとは思っていない。
しかし、目の前の彼は愉快そうに口角を歪めた。
「はっ。俺達より、お前らに魅力を感じるって?そんなことは未来永劫ねえんだ。いいか?春人が最後に選ぶのは、絶対にTRIGGERだ。
あいつはな、俺達にぞっこんなんだよ」
まるで、当たり前のように。既に決まり切った真実のように、楽は得意げに言い放った。
それがあまりにも尺に触り、つい嫌悪感を表に出してしまう。
「やっと その顔からムカつく笑顔が消えたな。あんた、今の方がイイ男だぜ」
「…ふ。そりゃどうも」
「とにかく、お前らもう少し本気でやれよ。この前の歌番、あれ生歌じゃなかっただろ」
「突然どうした?先輩からのありがたいアドバイスって奴か」
「そんないいもんじゃねえ。お前らがどうなろうと、俺は知ったこっちゃねぇからな。俺が許せねぇのは、お前らがファンを傷付けるような真似をすることだ。信じてくれてる自分達のファンを、裏切るな。
お前を信じてる春人のこと、裏切るんじゃねぇよ」
人を裏切る時に、いちいち そいつが自分のことを信じているかどうかなど、考えたことはない。
相手が俺を信じていれば、俺はそいつを裏切らないのか?
相手が俺を信じていなければ、俺は平気でそいつを裏切れるのか?
不実を働く際、そんな面倒事を考えるように、人間ってやつは出来てない。