第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
落ち着きを取り戻し、スタジオの照明を点灯させてから楽と向かい合う。
『楽。改めて謝罪します。貴方をあのような形で巻き込んでしまい、本当に申し訳』
「問題なのは、俺が巻き込まれたことじゃない。お前が、あんな目に遭ってること自体が問題なんだろ」
『…楽』
「俺達を守る為に、お前の身を犠牲にするのは許さない。前にそう言ったはずだ。忘れたのか」
『犠牲…に、なってるつもりは』
「そこまでして、お前に守ってもらいたくねぇって言ってんだよ!!」
叫んでから、楽はそれを後悔するように頭へ手を持っていった。どうやら、冷静に話をするよう彼なりに努めていたのだろう。
小さく、悪い と呟いた。
『楽。貴方の気持ちは、ありがたいです。でも、これは私の我儘なんです。もう少し、彼らと一緒にいることを認めてもらえませんか』
「おい…なんだ、その言い方。それじゃまるで、お前があいつらと居たいって思ってるみたいだろ」
『…もう少しで、何かが見えそうな気がするんです。彼らのことが、理解出来そうな気がするんです』
私が仄かに笑うと、楽はこちらに手を伸ばした。その気配を察して、私は一歩 後ろへ下がる。
「っ、」
『ごめんなさい。私はそろそろ、行かなくては。彼らの収録が、始まってしまうんです』
「なんで、なんだ。あんなふうに傷付けられて、あんな仕打ちを受けて…なんでお前はまだ、あいつらの所に行こうとするんだよ」
『それは…今の私が、ŹOOĻのマネージャーだからです』
私が告げると、楽はそれ以上なにも言わなかった。そして、伸ばしていた腕を静かに下ろした。
後ろ髪を引かれる思いで、私はゆっくりと彼に背を向ける。
しかし。立ち去る前に一度だけ、楽の方を振り返った。
『ありがとう、楽』
「…春人?」
『楽。ありがとう。私のことを好きになってくれたこと。本当に、ありがとう』