• テキストサイズ

引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第97章 諦める理由にはならねぇだろ?




楽の腕に縋る。
ごめんなさいとか、大丈夫だとか、口にすべきはそういう言葉なのに。私が必死で紡いだ言葉は、それとは全く異なるものだった。


『が、…く、はぁッ、げっほ!楽…』

「大丈夫だ、俺はここにい」

『りゅ…うには、ごほ!龍には、言わないで!』

「!!」


告げた瞬間、楽に抱き寄せられた。そして、咳き込む私の背中を優しく撫でる。


「…分かったから。龍の奴には、黙ってる」

『は…っ、げほ!…こほ』

「お前はいつだって、龍のことばっかりだな。自分がこんな、ボロボロになっても。いま目の前にいるのが、俺であっても」

『はぁ、…っは』


私を抱き締めていた楽は腕の力を緩め、今度は顔を覗き込んでくる。これだけ至近距離で見下ろされれば、さすがに彼の表情も窺えた。
どうして、彼は泣き出しそうな顔でこちらを見るのだろう。

楽の親指の腹が、ゆっくりと私の口元を滑る。唇を汚している色々な物を、綺麗に拭う。


「どうして俺は…そのことが、こんなに引っかかるんだろうな」

『……が、く?』

「…いや、今は俺の気持ちなんかどうでもいいんだ。
落ち着いたか?水、飲むだろ?」

『はい…。もう、大丈夫です』


私は楽から、タオルと水が入ったペットボトルを受け取った。

さっきまでは、まだ虎於の物を喉に入れているような感覚が残っていたのだが。今は咳も治(おさま)って、呼吸も整った。
冷たい水が身体を通っていくのが、気持ち良い。私は喉を鳴らして水を飲んだ。

/ 2933ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp